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Naked Lunch
裸のランチ (1991) Canada / UK / Japan 117min.
Introduction 序盤アウトライン
1953年、ニューヨーク。小説家と云う肩書きを持ちながらも害虫駆除会社に勤務するビルは、ある日の営業先で満タンだったはずの駆除薬を切らしてしまった事に強烈な違和感を抱いていた。やがて、その駆除薬が紛失すると云う奇怪な事件が、駆除薬を新種のドラッグとして使用する妻ジョーンの仕業だと気付いたビルだったが、共にドラッグを嗜むようになった事でシュールなヴィジョンに苛まれるようになったビルは、ジョーンを粋な方法で殺害せよと云う暗示を真に受けてしまうーー
Various Note メモ
「吐き気を催す作品だ」「エセ知識人の薄汚さは絶望的」「悪趣味の極み」「他人の排泄物の臭いを嗅がされるよう」「悪臭の衝撃なしに何も生まれない」「生殖器や内蔵は芸術とは相容れない」「想像力をむかつかせ嘔吐させる」「道徳は専門家に任せ、芸術を正当に評価するべきだ」と云った大方の批評が極めてネガティヴなもので、その出版時の1958年には発禁処分になるなど議論を呼んだバロウズの原作「裸のランチ」だが、クローネンバーグとバロウズが足並みを揃えた91年のプレス会見では、劇場長編用に脚色されたシナリオは、出版時ほどの混乱を引き起こすものでは無いと楽観視する前置きを残しながらも、実は、そのシナリオの内容に製作会社や銀行には困惑され、また、自身が選ばれた事にかすかな怒りさえ覚えていたと云うジュディ・デイヴィスなどは、電話口に出てくれもしなかった事があったと云う赤裸々な話も明らかにしている。
この会見の模様はとにかく面白い。ドラッグに対する姿勢は変わっていないかと云うマスコミからの質問に対し、「まるで変わっていない」と前置きしたバロウズは、ドラッグが問題になるのは非合法にしたからだと言い放ち、保守的な人物たちが「古き良き時代」と呼ぶ19世紀には公然と売買されていたアヘンやモルヒネも、1914年の麻薬取締法によって非合法となった事で御馴染みの連中(中国人など)が罪人にされてしまった事を非難、そうでもしないと罪人もいなかったのだろうと云ったシニカルな論調に終始している。この強烈なパンチラインを含むコメントは、さながら北野さんのギャグと云った所。
映画化出来るのは限られた部分に止まり、映像として残されるのは小説の断片部分だけであると云うバロウズに対し、監督のクローネンバーグは、原作をどこまでカヴァーするかと云う問題に苛まれていたらしいが、原作の全ての要素を盛り込めば一大叙事詩になってしまう事を懸念したクローネンバーグは、原作では意図的に避けられていた人間的で感情に訴える要素も挿入するなど独自のアプローチも織り込む事で、環境への同意の取り付けを始めとする様々な問題などもクリアしたようである。
製作者のジェレミー・トーマスが「ラスト・エンペラー」を、クローネンバーグも「ザ・フライ」をヒットさせたと云う状況下で、機が熟したと悟ったクローネンバーグは、出演者として参加する「ミディアン」の撮影の為にロンドンに向っていた機中でシナリオを書き始めているが、断片的で飛躍する話の飛び交う「易経」とも呼べるような難儀な原作をベースにしながらも、常に何らかの言葉が見つかると云うスタイルをポジティヴに捉えていた事で、そのシナリオの完成にも時間を要しなかったと云う。自らの感性とバロウズの感性を融合させる事で、一方だけでは不可能と云える新しいものをクリエイトしようと考えていたクローネンバーグは、その当時の心境を、オマル・ハイヤームの「ルバイヤート」の英語訳に例えている。そのE.フィッツジェラルドによる英語訳は、ボルヘスによって扱き下ろされているが、凡庸なレベルだったとも云えるハイヤームの詩が9世紀を経て甦ったのもフィッツジェラルドの尽力によるもので、云わば、共同作業の賜物だったと云う例えである。
マルキ・ド・サドやアポリネールの作品にも共通する特異な感性の映像化に挑んだクローネンバーグだが、この作品への思い入れには強烈なものがあったようである。アイゼンハワーに抑圧された事で、アンダーグラウンドの世界に網羅されていたと云う先端芸術に傾倒していた彼が、文学界で最も傾倒していたのがバロウズだったからである。
同性愛やドラッグ、死や殺人を単なる興味の対象としてではなく、主人公の人生と不可分のものとして描いたこの作品は、そのテーマも、カタルシスや裏切り、そして、生命の深い闇と云ったモチーフを含む哲学的なものだと云えるが、そのバロウズの書き上げた原作は、意識に浮かぶイメージをそのまま羅列すると云うルーティン的な手法で書き下ろした数多くのモチーフを纏め上げた作品である。1953年、バロウズが自らの人生を綴った処女作「ジャンキー」の出版にも協力したアラン・ギンズバーグとの短い情事を終えた後、NYからタンジールに移ったバロウズは、以後の5年間に、そのNYのギンズバーグに書き送り続けたルーティンの集積が、本作「裸のランチ」だったのである。但し、そのルーティンの殆どが、バロウズの人生そのものを綴ったもので、ウィリアム・テルを真似する主人公が妻ジョーンの眉間を撃ち抜くと云うモチーフなどは、バロウズの写真が新聞の一面を飾った現実の事件を再現したもの。ハーバードを出ながらも、社会の普遍性には決して迎合する事が出来なかったバロウズ、その彼の人生そのものをフィクションと融合させた作品が、本作「裸のランチ」である。
そして、劇場長編として遂に陽の目を本作だが、5億ドルが投じられたと云う製作費用をフイには出来ぬと葛藤するクローネンバーグが検閲との軋轢に苛みながらも完成に漕ぎ着けたと云う事を考慮すれば、この特異なまでの映像にも惜しみない拍手を送るべきである。意思を持ったタイプライターの「話す肛門」を始めとするグロテスクな演出には引いてしまう方々も少なくないのかもしれないが、原作のコントラストを引き合いに出せば、まだマシなもので、むしろ、眩いばかりの美しさのカラーコントラストや、鬼気迫るパフォーマンスに終始しながらも抑制されたポテンシャルで魅了する出演者たちの力量を目の当たりにすれば、整然とした印象すら受けてしまう。断片的なモチーフを纏め上げたシナリオもクローネンバーグ作品では随一と云える完成度。



製作スタッフ
Staff
関連作品 (抜粋)
Related Works "excerpts"
脚色と監督
Screenplay
& Directed by
デイヴィッド・クローネンバーグ
David Cronenberg
スキャナーズ Scanners
デッドゾーン The Dead Zone
ザ・フライ The Fly
戦慄の絆 Dead Ringers
製作
Produced by
ジェレミー・トーマス
Jeremy Thomas
ラストエンペラー The Last Emperor
シェルタリング・スカイ The Sheltering Sky
原作
Based on the novel by
ウィリアム・S.バロウズ
William S. Burroughs
ドラッグストア・カウボーイ Drugstore Cowboy
撮影
Cinematography by
ピーター・サシツキー
Peter Suschitzky
小さな恋のメロディ Melody
スター・ウォーズ 帝国の逆襲
 Star Wars: Episode V - The Empire Strikes Back
戦慄の絆 Dead Ringers
編集
Edited by
ロナルド・サンダース
Ronald Sanders
ザ・フライ The Fly
戦慄の絆 Dead Ringers
美術
Production Design by
キャロル・スピアー
Carol Spier
ザ・フライ The Fly
戦慄の絆 Dead Ringers
衣装デザイン
Costume Design by
デニーズ・クローネンバーグ
Denise Cronenberg
ザ・フライ The Fly
戦慄の絆 Dead Ringers
ガーディアン 森は泣いている The Guardian
音楽
Music by
ハワード・ショア
Howard Shore
羊たちの沈黙 The Silence of the Lambs
ザ・セル The Cell
ロード・オブ・ザ・リング
 The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring
挿入曲
Various Music
Hauser And O'Brien / Bugpowder - Howard Shore/Ornette Coleman
Simpatico / Misterioso - Howard Shore/Thelonious Monk
Intersong - Ornette Coleman
Ballad / Joan - Ornette Coleman
Cloquet's Parrots / Midnight Sunrise
Writeman - Howard Shore/Ornette Coleman
キャスト
Cast
配役
Plays
関連作品 (抜粋)
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Joan Lee
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イアン・ホルム
Ian Holm
Tom Frost ヘンリー五世 Henry V
ハムレット Hamlet
ジュリアン・サンズ
Julian Sands
Yves Cloquet 太陽は夜も輝く Il sole anche di notte
アラクノフォビア Arachnophobia
ロイ・シャイダー
Roy Scheider
Doctor Benway オール・ザット・ジャズ All That Jazz
対決 The Fourth War
ロシア・ハウス The Russia House
モニーク・メルキューレ
Monique Mercure
Fadela クィンテット(未) Quintet
ブレインフューチャー(未) Dans le ventre du dragon
ニコラス・キャンベル
Nicholas Campbell
Hank ザ・アマチュア The Amateur
デッドソーン The Dead Zone
マイケル・ゼルニカー
Michael Zelniker
Martin バード Bird
クイーンズ・ロジック 女の言い分・男の言い訳
 Queens Logic
ロバート・A.シルヴァーマン
Robert A. Silverman
Hans プロムナイト Prom Night
スキャナーズ Scanners
ジョセフ・スコーレン
Joseph Scoren
Kiki カンパニー・マン Cypher
シカゴ Chicago
ピーター・ボレツキ
Peter Boretski
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