Introduction 序盤アウトライン: |
2名の女子高生連続殺人事件が巷を席捲する中、その犯人が次なるターゲットを見定めていた。その遺体の喉笛にハサミを突き立てる手口から「ハサミ男」と呼ばれていた犯人だったが、ところが、そのターゲットにするはずだった女子高生宅を下見に出ていた「ハサミ男」が遭遇したのは、別の何者かによって殺害されたターゲットの遺体だった。やがて、そのコピーキャットの存在を探るべく独自の行動を起こした「ハサミ男」だったが、一方、一連の事件の捜査に当たる所轄所刑事の磯部は、通称「マルサイ」と呼ばれる警視正階級のサイコアナリスト堀之内の指揮下で草の根の捜査を展開するのだがーー |
Various Note メモ: |
映像化不可能とも云われた殊能将之のデビュー著書を映像化。猟奇連続殺人の犯人「ハサミ男」の正体も序盤から提示される中、その模倣犯罪と思しき殺人事件を背景に「犯人」が「犯人」を突き止めると云う特異なシチュエーションが展開。間もなくして提示される伏線や「ハサミ男」の核心に迫るモチーフだけでも立派な推理+αのドラマとして成立するが、その実、それだけでは終わらない。約2時間の上映時間をリバースすれば、全てのネタが明かされた後にやや長丁場のシークエンスも待ち構えているが、その倫理的な観点での是非はさて置き、秀逸なスクリプトが真しやかに情緒を揺さぶる。捻られた顛末が当たり前のように輩出される昨今、そのプロットの映像化に遜色を残す事も多々ある中に於いては出色の出来映え。
以下、ネタバレを含む内容ですので、未見の方はご注意下さい。 |
一連の殺人も、父親の自殺によって犯人の精神性が歪められた事に起因するもの。クライマックスでも明確に提示される通り、あの犯人の二人羽織と云ったパフォーマンスも、実は、パラノイヤなどとは一線を画したものだが、霊魂と化した父親によってトラウマを引きずる娘の精神的解放が到達されるのも、2件の殺人事件(伏線の男への殺人も含めれば3件)と云う土台の上に成り立つもの。「いつ被害に遭ってもおかしくなかった」と云う刑事のセリフでも駄目押しされる通り、被害者となった素行不良の2人の女子高生に対しては哀れみも与えられぬシナリオだが、その実、このヴィヴィッドなモチーフは、短絡的に割り切れるようなものでもない。 |
あの十字を模る構図での意味深な最終カットも、独断的かつ偽善的な「贖罪」と云ったニュアンスで片付けられているものだが、ハッピーエンドを迎える主人公の肥しとなる犠牲者を女子高生にセッティングしてしまった時点で、この種の理不尽さも必然的だったと云える。ハッピーエンドを排除するストイックなクライマックスであれば、その「贖罪」にもある種の説得力があったはず。ただ、情緒揺さぶるスクリプトやあの爽やかなエンディングを目の当たりにしてしまえば、意見するのも難しい所。予想外の面白さを満喫した事も事実。ミステリー性に拍車をかけるダイナミックな演技を披露する出演陣、その適材適所のキャスティングは見事。デジタル処理のループと秀逸なパフォーマンスが融合する本多さんのスコアも極めて印象的。 |