Introduction　序盤アウトライン：

１９８８年、犯罪発生率が４００％に達したアメリカは、ニューヨーク市全体を巨大な監獄と定めるマンハッタン島の隔離政策を実施する。あらゆる橋や水路には地雷が設置され、ハーレム川を横切りＮＪからブルックリンまで続く沿岸沿いに設置された高さ１５メートルの隔離壁に包囲されたマンハッタンでは、片道切符で送り込まれた膨大な数の囚人たちによって独自の社会が形成されようとしていた。１９９７年のある夜、サミットに向っていた大統領専用機が、自爆を覚悟していたハイジャック犯と共にマンハッタン市街地で炎上、只一人、カプセルで脱出していた合衆国大統領だったが、完全武装の救助隊が到着する頃には、既に悪の支配者デュークの手中に落ちていた。マンハッタン島全土を隠れ家にするデュークに対し、もはや、正攻法での救出も不可能と判断した警察署長のホークは、終身刑の受刑者プリスケンに、その恩赦を交換条件とする大統領救出の話を持ち掛ける。かつては特殊部隊将校としての華々しいキャリアを持ちながらも暗黒街の誰もが知る伝説の犯罪者に転身、愛国心や正義感とも久しく縁の無かったプリスケンだったが、動脈を破裂させると云う劇薬カプセルを打ち込まれ服従を余儀なくされてしまう。しかも、プリスケンに与えられた大統領救出までの猶予は、その劇薬の効能が発揮されるまでの僅か２２時間と云う過酷なものだったーー

Various Note　メモ：

実はセントルイスで撮影されたものだったと云うセントラルパークを越えて滑空するヘリのカットだが、そのＮＹの背景画として挿入されていた画像など、その絶妙な効果も一目瞭然と云ったマット画像の制作には、あのジェームズ・キャメロンが中心スタッフとして参加していた。プリスケン（カート・ラッセル）が乗り付けるグライダーの航行を示す３ＤＣＧのような映像など、その公開当時には、目を見張るような先端の映像には驚かされた作品である。３Ｄグラフィックイメージを制作するアプリケーションも非常に高価だった撮影当時だが、あの真しやかな３ＤＣＧのような映像の正体は、真っ黒にペイントされた後に各グリッドに白いテープを貼り付けられた市街地の模型を制作、滑空するヘリからの視線をイメージしながらその模型を撮影したものだった。これは、作品のステイタスを高めるにも有り余る効果をもたらした素晴らしいアイディアだったと云える。

イタリア公開版では「ハイエナ」、韓国では「コブラ」と差し替えられていた「スネーク」と云う俗称を持つ主人公のプリスケンだが、スタジオがプッシュしていたと云うトミー・リー・ジョーンズやチャールズ・ブロンソンを押し退ける形で、その役を射止めたカート・ラッセルが独壇場での存在感を示す一方、リー・ヴァン・クリーフやアーネスト・ボーグナイン、ドナルド・プレザンスと云った面々も強烈な個性を披露、そのキャスティングに於いても、低予算のイメージを払拭する事に成功している。

マイケル・ジャクソンの「スリラー」のクライマックスを髣髴とさせる地下の住民との追跡劇（ラッセルの当時の妻だったシーズン・ヒューブリーも登場）や、実際に一悶着あったと云うカート・ラッセルとオックス・ベイカーが格闘を繰り広げる特設リングでのシークエンスなど、自由の女神と警備隊が映し出される冒頭のドリー・ショットを除くその全ての撮影は、大火災に見舞われた直後だったと云うセントルイスで行われている。

４拍目裏に入るリズムボックス・スネアのアクセントも印象的なアナログシンセの多重録音によるテーマソングは、後にイタリアのクラウディオ・シモネッティ氏（元ゴブリン）のカヴァーなどによってマニアの間では広く知られるようにもなった楽曲だが、グライダーに乗るプリスケンを捉えたシークエンスで流されるスコアなど、意表を突く垢抜けた楽曲も挿入、絶妙な効果を得ている。

犯罪者に転じたプリスケンが働く銀行強盗のシークエンス（ジョー・アンガーも登場していた）や、合衆国大統領（英国人のドナルド・プレザンスだった為）が何故、英国訛りの英語を話すのかと云った説明を提示するカットなど、蛇足とも思えぬようなカットを撮影しながらも、結果的には、一切を排除したカーペンターだが、このスレンダーな印象に終始するシナリオに於いては、ある意味、適切な判断だったと云える。「１００万ドルの血斗」を踏襲した「誰もが死んだと認識していたプリスケン」と云うニンマリと云ったモチーフも登場するが、基本的には、シリアス路線の引き締まったシナリオを満喫出来る作品。スペシャル仕様のＤＶＤ化に当たってＭＧＭの倉庫からようやく発見されたと云うマスターリールだが、このカーペンターの金字塔とも云える名作が美しい画質で再現されていたＤＶＤのリリースは嬉しかった。ヴィヴィッドにステレオ収録された音声トラックも申し分なし。余談だが、「ハロウィン」「ザ・フォッグ」などのカーペンター作品や「プロムナイト」のジェイミー・リー・カーティスの声のように聞こえる挿入部のナレーションだが、クレジットされていない為にその真相は不明。