Introduction　序盤アウトライン：

エリートビジネスマンのジョーは、市場をコントロールし莫大な利益を生み出す事が出来るデータ「プロセス」を発明、そのプレゼンテーションの為に、カリブのリゾート・エステフェ島を訪れていた。一方、ジョーの勤務する会社の社長クラインは、その発明の利権が発明者のジョーによって会社から奪い取られる事に強い懸念を抱いていた。余暇の時間、ジョーはビーチサイドで見知らぬ男ジミー・デルと知り合う。富豪だと語るジミーは、発明に要する資金提供を申し出るばかりか、テニスの名選手だと云う妹との縁談までを持ち掛ける怪しい人物だったが、会社との信頼関係も悪化の一途を辿り四面楚歌状態だったジョーは、違和感を抱きながらもジミーとの関係に全てを託そうとする。ところがーー

Various Note　メモ：

純愛路線や人間ドラマであればシリアスな表情も板に付くスティーヴ・マーティンだが、ここでの配役は、やや微妙。ここでのプロットは、昨今の先物詐欺などにも共通するもので、運用資金と称して多額の金を騙し取ると云う古典的な詐欺の手口を描いたものである。カモられて四面楚歌の状況に陥る側の視点から描かれると云うスタンスは、組織的に行われる大掛かりな詐欺をモチーフにしながら、カモる側の人間模様を悲喜交々に描いた「スティング」などとは一線を画したものである。シカゴのグッドマン劇場の芸術監督を務めた後に米国を代表する劇作家となったデイヴィッド・マメットによるシナリオは、感触のある教訓とでも云うべきリアリズムを真骨頂にしたもの。

ただ、胡散臭い人物は胡散臭いままに登場し、その黒幕となる人物の動機もほぼ明確に提示される為に、その結末にも然程、驚きはしないと云った所だが、スペインの亡命貴族を名乗る囚人が財宝と美しい妹の存在をエサにターゲットから保釈金を巻き上げると云う古典とも違い、実行犯と黒幕を隔てる事で生み出される伏線によって、その緊張感も終盤まで継続されている事は確か。また、何と云っても特筆すべき点は、明晰な頭脳と人並み以上の常識を持ち合わせながらも、然るべく罠に嵌ってしまうと云う主人公の視点から赤裸々に描き出された混沌とした表情である。日常での詐欺被害などの事件記事を客観的に体験したような場合、自分は大丈夫とあぐらをかいてしまったりもする訳だが、実は、その渦中での混沌とした様相を実感出来ずにいるだけなのである。