Introduction　序盤アウトライン：

武装強盗の罪で服役していたマックス・デンボは、カリフォルニア刑務所を仮出獄した事を契機に、堅気の世界で地道に生きようと決心していた。保護監察官アールとの約束を果す形で、アパートと仕事を確保したデンボだったが、久々の対面を果した昔の仲間ウィリーがデンボの部屋で麻薬を打ってしまった事から、アールの機嫌を損ねる形で再び留置場に入れられてしまう。職業紹介所で知り合った若く美しいジェニーとの関係を大事にしたかったデンボは、犯罪と暴力の世界に返り咲くと云う気も毛頭無かったが、麻薬を打った痕跡など無かったにも拘らず、お役所仕事を片付けるような感覚で留置手続きへと踏み切ったアールへの怒りは怒髪天を突いていた。釈放後、アールと同乗する車中で、ウィリーの名前を吐かせようと揺さぶりを掛ける狡猾な態度のアールに対して怒りの暴力制裁を加えてしまったデンボは、犯罪者の道に逆戻りする事を余儀なくされてしまうーー

Various Note　メモ：

幼い頃に両親が離婚、養護施設を転々とした後に窃盗や麻薬密売で逮捕、１８歳で刑務所に服役したと云う経験を持つ原作者のエドワード・バンカーだが、シナリオの下敷きとなった原作著書は、７３年、バンカーがマリオン刑務所に服役していた際に書き下ろされたもので、後の７５年にバンカーが仮釈放されたのも、本作のプロダクションに協力すると云う条件の下での優遇措置によるものだった。本作の劇中にも登場するバンカーだが、８９年の「デッドフォール」９２年の「レザボア・ドッグス」などでも彼の姿を見る事が出来る。執筆業では、８５年に共同脚色を担当した「暴走機関車」が最も有名。

堅気になるべく誓いを立てた一人の男が辿るシリアスな顛末だが、その等身大のスタンスで描き出された主人公の赤裸々な葛藤もストレートに伝わるヴィヴィッドなシナリオながらも、起承転結を含むドラマとして捉えれば、一体、何処がオチだったのかと云う事になってしまう物語だったような気がする。例外なく、誰もが犯罪者としての資質を抱えていると云える人間性の本質を考慮すれば、大方の場合、不満を抱かれる事もないと思われるここでの結末だが、それぞれのキャラクターもヴィヴィッドに描き出されるスリリングな顛末に魅了されながらも、結局、犯罪者に甘んじる事しか出来なかった主人公のデンボが美化されているようにも思えてしまう下りには、やはり、違和感を覚えてしまうのである。

大方の犯罪ドラマでは、犯罪者は然るべき結末を辿る事で責任を果すと云う顛末になる訳だが、ここでは、相方のジェリー（ハリー・ディーン・スタントン）に責任を押し付けると云った形で描かれてしまっている訳である。しかも、挙句の果てには、悪に成り切れなかった為にドジを踏むウィリー（ゲイリー・ビジー）に死の制裁を加えるデンボが情緒豊かに描かれてしまっている上に、迎えるエンディングは「ラッキー・ストライク」も形無しと云ったニヒルなものである。ただ、倫理的な側面で捉えれば問題ありと判りながらも、抑制の効いた演出やテレサ・ラッセルの健気な表情によって、ある意味では赤裸々な人間ドラマとも云える顛末を、普通に楽しめてしまう所が厄介だったとも云える微妙な作品だが、欧米各国はもとより、ここ日本でも、ＶＨＳでは陽の目を見ながらも、ＤＶＤのリリースは見送られていると云う現状にも、取り敢えずは頷けると云った所だろう。

あごを半歩前に突き出して、かかとを上げて足早に歩いているようにも見えてしまうダスティン・ホフマンだが、その御馴染みの個性も、ここでのデンボと云う配役については、やや微妙と云った所。強いて云えば、「ファミリー・ビジネス」での寡黙ながらにも腕っ節の強さを見せ付けると云うホフマンの姿を連想出来なくもないが、ここでの配役は、彼のキャリアの中でも異色だったと云えるもので、やはり、ここまでの強面はホフマンには似合わないような気がする。ゲイリー・ビジーの女房役でスポットでの登場となるキャシー・ベイツだが、昨今の「アバウト・シュミット」などを引き合いに出してしまえば、その若かりし頃のスレンダーな姿は、否応なしに印象に残ってしまう。