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Spy Sorge
スパイ・ゾルゲ (2003) Japan 182min.
Introduction 序盤アウトライン
1941年10月、近衛内閣の顧問も務める新聞記者の尾崎秀実、そして、ナチス党員と云う顔を持つドイツの新聞記者リヒャルト・ゾルゲがスパイ容疑で逮捕される。押収済みの証拠を提示する検事・吉河の尋問にも口を噤むゾルゲだったが、尾崎が供述を開始した事によって、遂にその重い口が開かれる。その内容は、二つの大国に翻弄されながらも、その信念を貫かんとした男の波乱に満ちたものだったーー
Various Note メモ
2003年度日本アカデミーでは「作品賞」「監督賞」「脚本賞」「音楽賞」「撮影賞」「照明賞」「録音賞」「編集賞」「美術賞」にノミネート、美術賞では受賞を果している。
軍国主義に強い懸念を示す尾崎秀実、資本主義社会で増幅された人種差別をその生い立ちの背景としていた宮城与徳、そして、第一次大戦の戦中・戦後の過酷な実体験から資本主義社会に見切りを付けたリヒャルト・ゾルゲ、これらの登場人物が共産主義に傾倒せざるを得なかったと云うその背景と動機はそれぞれ違うようにも見えるが、実の所は、全く同じだったように思える。
逮捕後の尾崎秀実はその上申書で次のように述べている。「世界資本主義は完全に行き詰まった。而してこの帰結は、世界戦争でなければならない。而してその後に生れいずべきものは、当然共産主義社会でなければならないと云う極めて抽象的かつ公式的な結論がほとんど信念とも云うべき、私の予想であったのであります。」
目前に繰り広げられようとする大惨事、破滅へと向わんとする国家の姿を目の当たりにしていた尾崎秀実は、差し迫る危機を回避すべき切迫した状況であった為に、社会主義国家の行く末の姿などを熟考出来ようはずもなかった訳である。煩悩と競争意識を断ち切る事など出来ようはずのない人間が、共産主義社会に理想郷を見出さんとしたその結果については、昨今の歴史を紐解けば明らかで、それは、私利私欲の塊となった特権階級による独裁的な圧政に始まり、民衆の不満がピークに達すれば破裂を招くと云う当然の帰結を迎えている。これは、その当代のトップだった人物が偶発的に独裁的だったと云うものでもなく、国民が経済的に一人立ち出来ないと云う体制を敷いた国家に於いては、重責を担った人間の価値観や判断が国家の存亡を左右するものとなり、その重責を遂行して行く過程に於いて「養っている」国民に対する特権意識が芽生えると云う事は火を見るよりも明らかだった訳である。独裁者の持つ負の意味に於いてのキャパシティーにも多少の個人差はあるものとは思うが、独裁者の懐に取り入ろうとする輩が特権階級として一つの社会を形成するようになれば、その行く末は自ずと見えてくる。
ドイツが不可侵条約を破ると云うゾルゲからの重要情報を無視してしまったスターリンは、その責任の所在を唯一知る所であるゾルゲを、あろう事かドイツのスパイと云う容疑で吊るし上げようとするが、日本に潜入していたゾルゲ本人はその迫害を回避、しかし、ソ連に残されていたゾルゲの妻が連行されてしまうと云う腹立たしい結果を生む。このスターリンの迷走ぶりには愚の音も出ない所。
劇中でも描かれている通り、ゾルゲ自身も、自らの拠り所とした思想の抱える限界点をスターリニズムを媒介に垣間見ていたもので、それは、行過ぎた粛清の報と共に知らされる共産主義思想の忠僕であった上官の逮捕・処刑と云う事件である。ただ、こうした理想と現実との狭間に立たされるゾルゲではあるが、行き場のない彼やクラウゼンと云った仲間達は、スターリンが社会主義によって生み出された怪物としては努めて捉えようとはしていない。自らが理想として描く主義・思想にその動機を見出す以外に行動の価値観が見出せないと云う袋小路に入り込んだ状況だったのである。
参戦前に行われた御前会議だが、もしも、近衛内閣が支持されていれば、日本の行く末はもとより、然るべき国益の為に身を呈していたにも拘らず処刑されてしまう尾崎秀実と云う人物の運命も大きく変わっていたものである。「たとえ祖国を裏切る事になっても、日本国民を裏切ると云う事はない」と云う尾崎の台詞は、尾崎の行動をほぼ把握していたと思われる西園寺公一(西園寺公望の孫)に対するものだが、その実在の西園寺公一氏は、尾崎氏を支持していたと云った旨のコメントを残していた訳である。
作品は3時間と云う長尺だが、ゾルゲや尾崎秀実、宮城与徳と云った人物それぞれのモチベーションなどもほぼ明確にされている。ただ、椎名桔平演じる検事が取調べの終盤で放つ台詞、そのゾルゲの行動を真っ向から肯定する台詞を特高なども見守る最中で放つとは非常に考え難い所で、エンドロールのイマジンと同様、描かんとするテーマの無理な駄目押しのモチーフと云った印象である。その歌詞に込められたメッセージ性は重々承知しているが、そのセットやCGも素晴らしい昭和初期から第二次大戦と云った時代背景を中心として描かれる作品に於いての違和感は否めない。冷戦の集結と云う時代がその終幕となる訳ではあるが、ベトナムの反戦運動にも身を投じていたレノンだったが故に「キリング・フィールド」では心に響くものとなっていたもので、本作に於いてはイマジンと云う70年代ポピュラー音楽と云う異文化が劇中の時代背景とは相容れない印象なのである。3時間と云う上映時間に於ける僅か数分間と云うエンドロール、他愛もない事なのかもしれないが、聞き手が抱く後々までの印象を大きく左右するものである。
劇的なエンターテインメント性とは一線を画すると云った印象のシナリオだが、扱われるモチーフがあまりに重厚である為に、演出のスタンスに対する所感と云ったものも湧き上がる間もなく時間が過ぎてしまったと云う感が強い。終盤で登場する駄目押し的なシークエンスの意図するテーマについては、その本編を通せば充分に伝わるもので、逆に本編では描かれていなかった挿話、御前会議の様子や苦悩する近衛内閣と昭和天皇の挿話なども織り込み、登場する中心人物たちの葛藤やジレンマなどを更に掘り下げたものであれば、この3時間枠すらを越える更に長い作品であっても冗長な印象は無かったと思われる。個人的には楽しませて頂いたが、何れにせよ、3時間に集約するには難しいテーマと云った所。蛇足だが、宮城与徳が東北を視察した際に「娘の身売りについての相談は役場まで」と云った看板が映し出されるカットには、正直、度肝を抜かれた。地方行政による身売りの仲介も由とする腐り切った中央集権の様相。青年将校の決起にも頷ける。



製作スタッフ
Staff
関連作品 (抜粋)
Related Works "excerpts"
原作/製作/監督
Based on the novel,
Produced & Directed by
篠田正浩 瀬戸内ムーンライト・セレナーデ
梟の城
プロデューサー 鯉渕 優 瀬戸内ムーンライト・セレナーデ
梟の城
脚本
Written by
篠田正浩 * 原作/製作/監督も兼任
ロバート・マンディ
Robert Mundi
ザ・ビジター(未) The Visitor
ラフ・マジック(未) Rough Magic
撮影
Cinematography by
鈴木達夫 長崎ぶらぶら節
千年の恋ひかる源氏物語
VFXスーパーバイザー
VFX Supervisor
川添和人 ノストラダムス戦慄の啓示
梟の城
VFXプロデューサー
VFX Producer
大屋哲男 Bird's Eye バーズ・アイ
CUTIE HONEY キューティーハニー
美術
Production Design by
及川 一 Quartet カルテット
プラトニック・セックス
衣装デザイン
Costume Design
森 英恵 Madama Butterfly (tv)
恋の羊が海いっぱい
音楽
Music by
池辺晋一郎 カタルシス
冬の日
キャスト
Cast
配役
Plays
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