Introduction　序盤アウトライン：

ＣＩＡの諜報員として数々の伝説を築き上げて来たネイサン・ミュアーだったが、その彼も東西冷戦の終結と共に引退の日を迎えようとしていた。そんな最中、ミュアーのもとに俄かには信じ難い衝撃的な一報が届けられる。それは、彼がスカウトし手塩に掛けて育て上げた諜報員トム・ビショップが中国で拘束されたと云うショッキングな事実だった。米中関係の緊張融和を唱える通商会談直前と云う状況下、ビショップ奪回には難色を示すＣＩＡ上層部だったが、ミュアーには、ビショップを見殺しになど出来ようはずが無かった。陰謀も見え隠れする中、やがて、孤立無援のミュアーによる一世一代のビショップ救出作戦が開始されるのだがーー

Various Note　メモ：

２０００年の秋にはイスラエルでも行われるはずだったと云うロケーションだが、同年９－１０月、パレスチナとの緊張が急転直下の状況を迎えた為に、モロッコでのロケーションに変更を余儀なくされている。また、劇中に登場する香港の米国大使館の撮影は、香港上海銀行の本店社屋で行われている。

「モーリー」と云うブランドの煙草が劇中の一部で登場するが、このモーリーと云うブランドは、ＴＶシリーズ「Ｘ－ファイル」でも登場する架空の煙草ブランド。

レッドフォード演じるミュアーの二番目の妻として登場するキンバリー・タフォは、撮影当時の米ハンガリー大使だったピーター・タフォ夫人として９７年から０１までハンガリーに滞在していた人物で、劇中に登場するベルリンのシークエンスも、キンバリー女史の滞在地ハンガリーで行われたロケーションだった。キンバリー女史は、米大使夫人と云う肩書きを持ちながらも、その滞在中にはハンガリーＴＶ放送局制作の昼メロにも出演するなど、多才な一面を発揮していたらしい。

一連の「ゴッドファーザー」シリーズでは、その不吉の前兆としてオレンジがモチーフにされていた事は有名だが、エリザベス・ハドレーを演じるキャサリン・マコーマックが誘拐される前に購入するのもオレンジである。

レッドフォードが引退宣言をしているかのようなシナリオである。引退とは云ってもある側面でと云う意味だが、彼が諜報機関員や犯罪者と云った顔で登場するのは、９２年の「スニーカーズ」以来である。シナリオライターが、独自のキャスティング・イメージで執筆すると云う事も珍しくはない訳だが、「スニーカーズ」での彼の配役名はマーティン・ビショップ、ここでのピットの配役名と同姓だと云う事も偶然ではないように思えてしまう。誰のアイディアだったのかなど定かではないが、何れにせよ、レッドフォードが再び諜報合戦に関わるような事も無いように思えてしまう所。

諜報戦と云ったテーマには相容れぬ印象もある人間ドラマのテイストもバランス良く織り込まれた秀逸なシナリオだが、ここで何より痛感させられたと云えば、その緊張関係や戦局を左右するのもパトリオットやステルスと云った近代兵器などではなく、僅か一瞬のタイミングで争われる諜報戦であると云ったリアリティである。抑制された演出によって、人間の絆を描き出したコントラストにも厭らしさを感じない。傑作。